2024年10月 特集 米国の国外金融資産の開示義務について パート2

米国の国外金融資産の開示義務について
日本に銀行口座・貯蓄型生命保険をお持ちの方、必読!

先月号に続き、
アメリカの国外金融資産の開示義務について、
タンパで唯一の

日本人の弁護士さん(専門家族法)でいらっしゃる
上田ケイトさんからのご投稿を掲載します。

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前月号では 
FBARとFATCAという
米国外金融資産の申告義務についてご紹介しました。

もともとFBARは、
マネーロンダリングやテロの摘発のために
報告義務を課すものだったのですが、
IRSは,課税漏れの把握に当たっても利用できるとし,
この制度に多くの人材を割当て、
積極的に海外資産を調査し、
FBAR違反を摘発しています。

なお,FBAR報告義務に「故意に違反した」者は
刑事起訴される可能性もあり、
有罪判決を受けた場合、
最高25万ドルの罰金、5年以下の懲役,
又はその両方が科されるとなっています。

2023年に、米国最高裁は
過失によるFBAR未申告に関して
興味深い判決を下しました。

このUnited States v. Bittner, No. 21-1195 (Feb. 28, 2023) の
事実関係は以下の通りです。



米国とルーマニアの二重国籍者であるビトナー氏は,
ルーマニアなどの銀行口座に5年間にわたり、
保有する272口座(残高合計1600万ドル)の報告義務を怠ったとして,
IRSにより、1口座につき1万ドル、
合計272万ドルの罰金が言い渡されました。

その後、裁判で争われ、一審、控訴審を経て、
最高裁で、FBARのペナルティは保有している口座数ではなく、
申告漏れ年数でカウントされる、
つまり罰金は5万ドルという判決が下されました。

この裁判の当事者であるビトナー氏は
1600万ドルという海外資産をお持ちなので
米国内資産も潤沢に保有されていると想像できます。

それ故に、経験豊富な弁護士を高額な報酬で雇うことが可能で、
アメリカ最高裁で勝訴できたと考えられますが、
過去や現在にわたり
FBARやForm8938を未申告の一般人が、
弁護士費用も多額のペナルティも払う余裕がない場合は
どのように対処すればいいのでしょうか。

2012年、米国国税庁(IRS)は、
今まで申告を怠ってきた人が自発的に開示すれば、
低額の罰金で済むという
海外資産自主開示プログラム
(Offshore Voluntary Disclosure Program-OVDP)を開始しました。



故意又は不注意で報告をしなかった、また、
そもそも報告義務の存在を知らなかった者に
是正のチャンスを与えるのが趣旨です。

しかし2018年にIRSはこのOVDPを終了し、
大幅な修正を加え、“2018 OVDP”が開始されました。

新バージョンのOVDPでは
米国外金融資産が未申告であった場合、
過去6年分のFBARを提出することで
FBAR義務違反の罰金や未払いの税金に課せられる罰金を
軽減するという救済措置を提供しています。

OVDPとは別に、IRSは2014年から
「Streamlined Filing Compliance Procedures」
(ストリームライン プロシ―ジャー)という、
不注意で開示を怠った人向けのプログラムを発表しました。



これは直近3年分の確定申告の修正と
直近6年分のFBARの申告を同時に行うことで、
それ以前のタックスリターンの申告並びに、
タックスリターン及びFBARのペナルティの
一部免除を受けられる制度です。

居住状況により二種類に分かれるこの制度は、
納税者の過去の海外金融口座の意図的ではない、
「過失」(Negligence)、「不注意」(Inadvertence)、
「税法に対する誤解」(Mistake or Good Faith Misunderstanding of the Law)
による未申告の救済策で、
これを利用できる対象者は未申告がNon-willfullnessで、
「意図的に」隠していなかった場合に限られます。

納税者は、この点を文章でいろいろな側面から
陳述書(IRS Form 14454)に記載し証明しないといけません。

最近、このNon-willfullnessがだんだん厳しくなってきています。

もし納税者が acted recklessly in violating a legal dutyや
acted with willful blindness.の場合、
単なる不注意や過失とは認められず、
この救済措置の対象外となります。

ですので、
”使っていたCPAが自身の海外金融口座について一度も質問しなかった”とか、
”銀行のステートメントがアメリカに郵送されないので残高を知らなかった”
などという理由ではNon-willfullnessとは
認められにくくなりそうです。

そうなると意図的な未申告になりますので、
非常に高額な、つまり1年分の罰金が10万ドル、
複数年ならその年数に10万ドルをかけて罰金が課税されます。

以上を総合して考えると、
ストリームライン救済措置を使えるか否かのポイントは
未申告がNon-wilfulnessであるかをいかに証明するかです。

陳述書の書き方次第で結果に大きな差が出るので、
未申告のある方はまず日本の金融資産に関する情報を集め、
ストリームライン経験豊富なCPAや
Tax Lawyerに対応をお願いされることを勧めます。

日本の銀行や証券会社、生命保険会社などのステートメントは
日本語で書かれているので、
日本語対応可のクロスボーダーCPAと呼ばれる
専門家に依頼するのもよいと思われます。



このような専門家は全米の主要都市に多数おられます。
まず電話やズームなどで相談されたらいかがでしょうか。

注釈:
私の考察は
米国での税務に関する一般論的概説ですので、
実際の案件については
個別に専門家の意見を求められるようにお願いします。

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ケイトさん、お忙しい中、
貴重な情報をシェアしてくださり
有難うございました。

ご投稿:上田ケイトさん

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