2024年9月特集 米国の国外金融資産の開示義務について パート1

米国の国外金融資産の開示義務について
日本に銀行口座・貯蓄型生命保険をお持ちの方、必読!

9月、10月とタンパ在住のケイトUEDAさんから、
アメリカの国外金融資産の開示義務について、
ご寄稿を頂きました。

ケイトさんはタンパで唯一の
日本人の弁護士さん(専門家族法)でいらっしゃいます。
お忙しい中、貴重な情報をシェアしてくださり有難うございました。

* * * * * *

アメリカで暮らしていると、
確定申告の季節になると憂鬱になった経験はありませんか? 

私も日本では確定申告を経験していなかったせいか、
自分の所得税や県民税、
市民税などの納税額も知りませんでした。

日本の税制は源泉課税を基本とし、
雇用者が給与所得者に代わり税金を徴収し納める方式なので、
私だけではなく、ほとんどの給与所得者は
確定申告をする必要がないようです。

私が日本にいた1990年初めは、
預金金利も9%という、
今では考えられない高金利でしたが、
利子所得も源泉分離課税で、
金融機関が、利子から所得税と住民税分を徴収し、
残りを預金者に支払い、
徴収分は金融機関が代わりに納税します。

一方、アメリカでは、
給与、利子、配当、不動産賃貸所得、キャピタルゲインなど
全ての所得を合算し、
支給地に関係なく確定申告を必要とする
総合課税方式を採用しています。
ただし二重課税を防ぐために、
すでに外国で課税された所得が
再度アメリカで課税される場合は、
外国で支払った税額に基づき
外国税額控除(Foreign Tax Credit )が認められます。

ここで 年々取締まりが厳しくなる
アメリカの国外資産開示義務について説明します。

2003年にBank Secrecy Actに基づき、
アメリカ国外にある金融資産の報告を義務付ける、
Reports of Foreign Bank and Financial Accounts Form、
いわゆるFBARと呼ばれる金融資産開示義務が開始されました。

FBARは正式にはFinCEN Form 114と呼ばれ、
毎年、米国財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)に
オンライン提出し(書類での提出は不可)、
タックスリターンとは別に単体で提出します。

加えて、2011年からは、
Foreign Account Tax Compliance Act(FATCA)という、
別の海外金融資産開示義務も開始されました。

海外金融資産というと、
富裕層がスイスやケイマン諸島の銀行に持つ
何億ドルというイメージですが、
実は海外金融資産とは、
海外の金融機関が管理する預金、
株や債券の口座、投資信託等すべてを指します。

ですから、日本に里帰りした時に便利だからと
生活口座として利用している銀行預金も、
日本の自宅を売却した際に得たお金を
一時的に入れていた銀行口座も、
要件を満たせば
海外金融資産の開示義務(FBAR・FATCA)の対象になります。

FBARの開示義務は、
海外金融資産を総額1万ドル以上を持つ
米国籍者・永住権者、アメリカ居住者、
アメリカでビジネスをする個人納税者、
パートナーシップ、法人が対象です。

対象となる金融資産とは日本など、
米国外にある普通預金、定期預金、財形貯蓄、
証券口座、個人・企業型確定拠出年金や
確定給付企業年金などです。

例えば 米国永住権を持つアメリカ在住のAさんが
2019年に120万円の定期預金口座を
日本の銀行に開設した場合、
2019年12月31日の為替レートの
1ドル=JPY108.31を適用し、
海外金融資産は$11079.00ドルとFBARに記載し、
口座情報とともに報告します。

もちろん預金利子は
IRSに利子所得として確定申告し、
日本で源泉徴収された税金分は
Tax Creditとして処理できます。

ちなみに個人年金や払戻金がある生命保険も
銀行預金同様、申告する必要があります。

銀行預金や生命保険などの情報を集めるのは
とても時間がかかり、
また銀行によっては
海外居住者にサービスを提供できないという理由で
口座の解約を求められることも考えられますが、
根気よく必要な情報を探すことです。

もしFBAR未申告でIRSに摘発された場合、
意図的な未申告の場合、
13万ドル、または未申告金融口座最高残高の50%のうち、
いずれか高い金額が罰金額となります。



未申告が意図的ではないと認められた幸運な場合でも、
1万3000ドルの罰金となります。

もしAさんの銀行口座の最高残高が
2019年から2024年までの6年間、
毎年Ⅰ万ドルを超えた場合、6年間の未申告となり
計7万8000ドルの罰金が課されます。

もしAさんが複数の口座を持っていた場合は、
口座残高を合計し、
合計額が1万ドルを超えた場合、
開示義務が発生します。

次に、FATCAですが、
米国外銀行口座や米国外で発行された
株式などの海外資産を持ち、
年度末時の残高が5万ドル以上、
または年間最大残高が7万ドル以上、
夫婦合算申告なら年度終了時の残高が10万ドル以上、
あるいは年間最大残高が15万ドル以上の場合は、
FBARとは別に、タックスリターンの際に
「Form8938」で開示する義務があります。
Form8938未申告、また過少申告した場合には
毎年1万ドルの追徴金が課されます。

でも、未申告でも日本の銀行預金がIRSに知れるわけない、
黙っていても問題ないのではと思いませんか? 

しかし、2013年に日本の公的機関および米国財務省が
【国際的な税務コンプライアンスの向上
及び米国のFATCA実施の円滑化のための
米国財務省と日本当局の間の
相互協力及び理解に関する声明】を発表し、
日本の金融機関が「米国人等」に該当する
口座保有者の情報を定期的にIRSへ報告する義務が生じたため、
アメリカ税法上の「米国人等」に該当する方の
日本の口座情報はIRSにつつぬけであると考えたほうがよさそうです。

TurboTaxなどのソフトで確定申告をする場合、
ソフトにForm 8938が含まれても、
FBAR (FinCEN Form 114)は含まれていないので、
Form 8938で申告義務をはたしている人でも
FBARを出し忘れていたり、
Form 8938の提出要件に該当しなかったので
FBARも必要ないと誤解していたが、
実はこちらは提出が必要だった、
というようなケースもあります。

しかしIRSから未申告の通知が来た後では、
知らなかった、
税理士さんにまかせていたが
海外資産に関して聞かれなかった
という言い訳は通用しないと考えてください。



私の知人のアメリカ人CPAも
FATCAやFBARの知識はあるけれど
海外資産に関して
クライアントに質問した経験はないということでした。

不注意の未申告なら
意図的な場合より罰金が軽減されますが
未申告である事実には変わりありません。

では 今まで開示を怠っていた人は
どうすればよいのでしょう?

FBARもForm8938も
違反すれば罰金が非常に高額ですので、
早めにきちんと対応しておきたいですね。

IRSは未申告である一部の人に
救済措置プログラムを提供しています。



このプログラムの詳細や
クロスボーダーCPAと呼ばれる
海外資産開示を専門とするCPAの選び方のコツなどは
次回で紹介したいと思います。

注釈:私の考察は米国での税務に関する一般論的概説ですので、
実際の案件については
個別に専門家の意見を求められるようにお願いします。

* * * * * *

この特集は来月号に続きます ☺️

ご投稿:上田ケイトさん

タイトルとURLをコピーしました