現在タンパベイエリアに9月から約9か月間の予定で研究留学をしている大津山です!専門は防災、特に地域復興に関する博士論文研究をここタンパベイで実施しております。この特集では私がなぜそもそもタンパベイに居るのか、家庭や地域での防災の必要性を二号に渡ってお送りいたします!
平成も残すところ約2か月を切りました。平成がどんな時代であったのか、毎年新年に執り行われる歌開始の儀で披露された天皇陛下の歌に凝縮されていたと言っても過言ではありません。「贈られしひまはりの種は生え揃ひ葉を広げゆく初夏の光に」。この「贈られしひまはり」とは1995年に発生した阪神大震災時に有名となったはるかのひまわりのことです。小学6年生で命を落としたはるかちゃんの倒壊した家跡から芽生えたひまわりが神戸を中心に「はるかのひまわり」として広がり、2005年の被災地慰労時に皇后陛下に被災者から手渡されたものでした。平成最後の歌としてあえて選んだのは、やはりこの30年がいかに自然災害に悩まされた時代だったかという想いが偲ばれます。
下の表は1945年から2015年までの日本における各自然災害の死者数です。戦後は都市機能の壊滅から被害が多発していますが、伊勢湾台風以降、法制度構築・インフラ整備によって約30年被害を抑ええることに成功していました。守れると思っていたものが守れなかった、あると思っていたものが本当はなかった、そのような研究者・為政者の自信や驕りのようなものを覆したのも阪神大震災・東日本大震災でした。
(参照:内閣府、平成26年防災白書)
自然災害は日本に留まらずグローバルな課題となっています。
下の表は世界の自然災害発生件数(1945-2015年)を示しています。Ring of Fireと呼ばれる環太平洋造山帯の活発化も見逃し難いですが、なにより気候変動による気象系災害(台風
※1 ・洪水・高潮など)の増加は明らかです。特に台風の通り道である東・東南アジア、北米を中心に広がっており、海水温の上昇によって台風の激甚化(カテゴリー5の増加等)が懸念されています。
(参照:EM-DATから筆者作成)
ではなぜ日本人の私が今フロリダ州タンパベイエリアに居るのでしょうか。ご存知のようにフロリダ州は大西洋で生まれるハリケーンに毎年のように悩まされています。州の一つの基幹産業である観光業においてはいかにフロリダ州のレリジリエンス(Resilience災害対応力、または復元力)を高めるかが喫緊の課題でした。
2004年の連続的なハリケーン被害、また米国史上最大の被害を生んだ2005年のハリケーン・カトリーナの教訓を踏まえ、フロリダ州では世界でも先進的な取組みである事前復興計画 ※2 (災害が発生する前にいかに復旧・復興準備、及び被害軽減に取り組むか)のパイロットプロジェクトを2008年から実施していました。
フロリダ州のパイロットプロジェクトの一地区がヒルスボロウ郡です。近年ハリケーンの直撃を幸いにも免れているタンパベイエリアですが、歴史を振り返ると1921年と1848年にハリケーンの直撃を受けていることが分かっています。いつかはわからないがいつかはる、そんな危機管理から始まったヒルスボロウ郡の事前復興計画は、他のパイロットプロジェクト地域と比べても専門家から高い評価を得ています。曰く、"Hillsborough
County, Florida, offers an excellent example of the use of a post-disaster
redevelopment plan"や“Best Practice”
※3 という表現も見られるように、復興時の再開発優先エリアの設定、多くの関係者を巻き込んで計画を策定した点などが評価されています。
でも「計画」は本当にいざという時に機能するのでしょうか。またタンパベイに住む住民は本当に準備できているのか。研究者はトップダウンの計画だけではなく、地域に根付いた草の根からの防災・復興意識の必要性は東日本大震災で再認識されました。研究者自が指定した避難場所での津波到達による死亡、守れるはずの堤防の破断による被災、司令塔になるべき庁舎の被災、これら「想定外」を乗り越えるための知見取組みの共有は世界規模で必要な時代となっています。タンパベイから学び、またタンパベイに日本の経験を還元できるよう研究者的批判者精神を持って研究を進めています。次号では具体的な気象系災害のこわさ(特に台風と高潮)と自宅・近隣住民でできる(またはしようとする)防災について考えたいと思います。
※1:ハリケーン・台風(Typhoon)・サイクロンは同一の減少現象ですが発生する海(ハリケーンは大西洋、台風は太平洋、サイクロンはインド洋)によって異なります
※2:事前復興計画は日本でも阪神大震災前後から議論が開始され、東日本大震災以降東京や南海トラフ地震が見込まれる沿岸自治体で少しずつ広がっています
※3:参照Schwab, J. 2016. Planning
for Post-disaster Recovery:Next Generation. American Planning Association.
(ページ担当:大津山 堅介 京都大学防災研究所 博士後期課程)